死にそうだった。
12時間もかかった。
鬼の峠を超えるのに・・・
峠を超えても休まるところはない。
さらに何時間もチャリをこぎ続けた仙台で高校時代の友達の世話になることになった。
ゆっくりと体を休める時間を送るはずが、一転してとんでもないことに・・・・
すっからかんになった!財布の中身が・・・
なんとか死なずにすんだ・・・
とりあえず仙台の友達の家に2〜3日泊めてもらえることになった。
ずーっと自転車をこぎ続けていたので気持ちも少しネガティブになっていた。
だからリフレッシュも含めて一人で街に繰り出した。
相変わらずチャリに乗って街の中を所狭しとグルグル見て回った。
ビルの5階ぐらいに漫画喫茶があった。
そこで麻雀ができなくなってから始めたビリヤードを一人で1時間ほどやった。
とても満足な時間だった。
服とかには興味がなかったので、特に見たいと思えるものがなかった。
帰りにタラタラとチャリをこいでいたら道端に雀荘があった。
ずっと恋しく思っていた麻雀ができるかも!!
そう思いながら勇気を振り絞って初めてのフリー雀荘に入った。
(ぶっちゃけ未成年だったからどうなるか不安だったけど何事もなく入れた。。。)
フリー雀荘とは一人で麻雀をやりに来てもいいよ、という意味
さっそく、麻雀卓に座った。
初めての全自動麻雀卓だった。
ボタンを押せば、卓の中から「ガガガガガ、ガジャンガジャン、カチャカチャカチャ、ピー」と自動卓からなる機会音とハイが並べられているような音が聞こえてくる。
今まではすべて手でやっていたことなのに、全部、勝手にやってくれる。
全自動はいいなーと感動しながら、いよいよ初めてのフリー麻雀が始まった。
いきなりビックリした。
みんなのスピードが速すぎる。
手の動き、頭のキレ、点棒のやりとり、そして、ゆとりを持った姿勢。
レベルが全然違う・・・
そう思いながらやり続けていたらだんだんスピードに慣れてきた。
だんだんと周りが見えはじめた。
気づいたことがあった。
スピードに慣れたら、勝てないような相手じゃなかった。
結果的には成績はトントンで終わった。
金銭的にプラスマイナス0ぐらい。
デビュー戦にしてはわりと良い結果だと思う。
平均的に負けて帰る人の方が多いからだ。
毎日やってる人でも同じ。
ちなみに店員さんも負けてる人の方が多い。
次の日、また雀荘に来た。
フリー雀荘の味をしめた僕は店で打つ楽しさにハマってしまった。
昨日とは違って、今日ははじめっからスピードに慣れている。
むしろ大波にでも乗っているかのような気持ちだった。
「んっ・・・」
「やばい・・・」
麻雀には流れがある。
あまり上手くない人はそれを「運が良い」とか、「運が悪い」とかいう。
ある程度やれる人は「運」というのか「ツキ」というのか、その流れを自分にもってくることができる。
その流れを一切つかめない。
つかみに行ってもうまくつかめない。。。
「うぅぅ、、、」
僕の点棒はドンドンなくなる。
点棒とともに財布から金が消えていく。
失ったものを取り返そうとしてしまう・・・
そして、僕は持ち金の3万円を全て失った・・・
挙げ句の果てに、支払いが持ち金を下回りそうになった僕を見かねた若い優しそうな男の店員さんが1万円を何も言わずに貸してくれた。
僕の素性を全く聞かずに。
「また来るでしょ!^^」と優しく声をかけながら。。
そして、僕は2度とその店にはいかなかった。
本当に申し訳ないことをした。
僕の財布には1枚の1000円札だけが残った。
橋の下に寝るホームレスは死ぬよ
いつまでも友達の世話にはなっていられない。
上京を目指して再びチャリをこぎ始めた。
手持ちは1000円のみ。
ぶっちゃけかなり心ぼそかった。
友達にお金を少し貸してくれといったら速攻断られた。
そりゃそうだろう。
この先どうなるかもわからない男にふつう金なんか貸せるわけない。
疲れと眠気はだいたい取れていたので一気に進んだ。
相変わらず東京まで続く国道をずっとチャリでこいでいた。
休憩はほとんどとらない。
現代スポーツでは考えられないとおもう。
昭和のスポーツ根性だ。
さすがは中学校時代の野球部で鍛えられただけある。
右を向けと言われれば右を向き、歌えと言われれば歌い、走れと言われれば走る。
まさに目指すべきAIの模範になるだろうロボット状態。
仙台を抜けても宮城県から出るまではかなり遠い。
宮城から福島に行くまでにも峠があった。
ただ、家出初日に経験した峠に比べれば赤子のようなものだった。
途中にあるイオンに寄ったり、長い坂道を歩いて登ったりはしたが、どの景色も初めてみるところだったから案外楽しかった。
自分の人生にチャレンジしている時っていうのは何もかもが新しい出来事だから楽しいのだと振り返ると思える。
体力的にはかなり辛かったけど。
宮城から出て福島に入った。
福島は思ったよりデカい。。。ってかデカすぎる!
「けっこう進んだだろう」と思っても全然進めてない。
正直、気が滅入って来た。
太陽は落ち始め、周りは少しずつ暗くなっていく。
でも、泊まるところなんかない。
ずっとチャリをこぎ続けた。
山を登ったりくだったり、ながーい橋を渡り、なだらかに永遠と続く坂道をこぎ続け、そして古びた商店街を通り抜けていく。
それでも太陽の夕日はギラギラに照らしてくる。
僕の体力は2重に吸い取られていく。
だんだんと外の暗やみは道路の路面をおおい隠し、周りの風景がボワーとした輪郭しか見えない。
昼間の風景とは打って変わって聞いているだけでモゾモゾしてしまう怪談の中に出て来る不気味な街になっている。
しかし、僕は進み続けている。
本当は休みたい・・・・・
周りを見渡し、休めるところがないか、目をギョロギョロさせながらチャリをこいでいる。
自分のせいでお金はなくなってしまったし、元々、贅沢なんかしてられない。
深夜になってもずっとペダルを回している。
車が道路を走る量もほとんどゼロに近い。
道路を走っているのは僕だけになることがほとんどだった。
ついに限界がきた。
もうじき明け方の3時。
周りは相変わらずくらい。
それ以上に寒さが体をいましめてくる。
夏だったから長袖なんか持ってないし、かけるものなんか当然持ってない。
無限にあると思っていた体力も底をつきそうだった。
ジュースの底に溜まっている残りカスをストローで吸い込むように残り少ない力を振り絞っていた。
そんな先の見えない過酷な状況のときに僕は川沿いをこいでいた。
そんなときあることが頭をよぎった。
「そういえば、ホームレスって橋の下に寝たりするんじゃなかった???」
そして橋の下で寝ることにした。
川沿いってだけあって、橋はいくつもあった。
見晴らしのいい川だったから、ずーっとはるか何キロも遠いところにある橋も見える。
どの橋にするか選び放題だった。
しかもどの橋を選んでも指名料はタダ(笑笑)
どれにしようか悩みながらチャリをこいでいた。
古びた橋はもちろん避けた。
だからと言って、ホテルのようなキレイな橋はなかった。
「まーこれでいいやー」
選んでるような体力もなかったけれど、寝るところが汚いのはさすがに嫌だ。
そんな事を考えながら脳はグラグラと、もうろうとしながら選んだ。
最後は妥協して決めた。
ある程度のところでいい。
それより早く寝たい。
キレイなところよりも心底湧き上がる睡眠欲の方が勝った。
さっそく橋の下に降りた。
チャリを橋の上に置いておけないからチャリごと橋の下に持って入った。
体力はなかったけど、チャリがパクられたら元も子もない。
体力限界の体でチャリを運ぶのは辛かった。
それでも、やっと寝床につける思うと心の底から嬉しさがこみ上げてきた。
18時間もの間、全力でこぎ続けたんだから・・・
体力の限界を感じているときに布団に入ると、のび太くん並みに高速で寝てしまう。
「うぅぅぅぅぅ・・・・・・さぶ・・・・・・」
そう、、、橋の下は劇的にさむかった。
橋は農業が盛んな地域で大きな川にかかっていた。
周りには地平線が見えるんじゃないか?ってぐらいの田んぼだらけ。
なんの抵抗もなく吹く風が橋のあいだをビュービューと駆け抜けていく。
やっと寝れると思ったのも束の間。
寝ようにも身体中にトリハダが立っていた。
夏の夜は激しく寒いんだと知らされた。
なんだかんだ言っても、もうろうとしていたのでやっとの思いで眠ることができた。
しかし、すぐに目が覚めてしまう。
寝ようと思った時間は3時だったのに、、、
今の時計は3時半・・・
頭の中はグラグラしている。
手には力が入らない。
ひざがカクッと折れてしまうぐらい踏ん張りがきかない。
そして、凍える寒さで体を覆うようにボツボツと鳥肌が立っている。
「ヤバい・・・ねれない・・・・・」
寒かろうが少しでも寝ようと集中した。
ウルウルとしながら寝たんだか眠れてないんだか遠い意識のまま橋の下で時間を過ごした。
凍えるぐらいの寒さの中で。。。
ふっと時計を見ると針は4時を指していた。
「もう無理だ・・・・」
僕は安眠を約束されていたと勘違いしていた。
そして橋の下で寝る事を諦めた。
5分後にはチャリをまたいで再びこいでいた。
「自由があるはずだっ!」とはかない夢を見ながら意識が遠のいていく自分を奮い立たせ上京を目指した・・・
人が眠い時に朝からイチャイチャしてんじゃねーよっ怒
「ぐぁんぐわん」としている脳にムチを入れながら僕はペダルを踏み続けた。
休めるところなんかほとんどなかった。
というより休み方がわからない。
知らない人の前で堂々と眠ることができなかった・・・・
だからそのまま進み続け、イッキに宇都宮を目前にした。
しかし、時間が過ぎるのは思ったより早く周りはすでに暗くなっていた。
橋を出発してから14時間経っていた。
限界のさらに限界を超えていた。
体を動かすのがツライ・・・
宇都宮郊外に新しい家が建ちならんでいる住宅街があった。
次の瞬間、僕はその一帯にある一軒の家のチャイムを鳴らしていた・・・
「ピンポーン」
「はい、どちら様ですか??」
「あのー、すいません・・・ぼく、いま泊めてもらえるところ探してて・・・」
「やめてくださいっ!!」
ガチャッ!!
ヤバいっ!警察よばれる!!
すぐさまその場から逃げるようにチャリをこぎ始めた。
その勢いのまま宇都宮までチャリをこいだ。
「もう、知らない人の家に泊めてもらうなんて考えるのはやめよう・・・・」
そう、思わせられた。
何もない自分。
生きることに必死のぼくがとった行動は知らない人の家のチャイムを鳴らして泊めてもらおう、という発想だった。
生きるための儚い想いもすぐに泡となって消えていった・・・
久しぶりに商店街が建ち並ぶ風景を見た。
「都会に来たみたいだなー・・・」
とつぶやきながらタラタラとチャリをこいでいた。
ただ、商店街はコンビニ以外はほぼ閉じられていた。
着いた時間は真夜中の2時。
とくに行くあてがなかったのでとりあえず宇都宮駅に向かった。
初めての宇都宮駅は薄暗く不気味な空気が漂っていた。
新鮮に感じたがキレイではなかったし、シャッターが立ち並んでいた。
渡り廊下には酔っ払いやホームレスが2〜3人ぐらい寝ていた。
なんとなくどうしたら良いか分からなかった。
再びチャリに乗って街中をさまよった。
行き着いた先は宇都宮駅の反対口だった。
チャリ置場が広かったので、駐めたところを覚えてられるか不安だった。
そして、さっきとは真逆の入り口から駅に入った。
まだ外は暗い始発前の時間帯。
駅にいる人は先ほど見たホームレスと酔っ払いだけ。
そして、僕も通路に座った。
恥ずかしさがあった。
支柱があったのでその裏に座り込んだ。
疲れた体は脳に睡魔を送り続けて来た。
頭がグラグラ揺れる。
うつろになり眠りたい気持ちが高まってくる。
すぐにでも眠りにつきたい・・・
少しずつ人が増えてきた。
始発の時間のようだ。
電車の走る音、アナウンスの声が駅に響き渡りはじめた。
回数が増すにつれ、人の渦が大きくなってきた。
まるでタバコの煙のように吸いこんではブハーッと吐き出すかのような現象だった。
僕は煙の渦を目の前にして限界だった体がグラグラと揺れ続けている。
でも、そんな状況では眠れない。
ぼくが影にしていた支柱のとなりにもう一つ同じような支柱があった。
そこに20歳ぐらいのカップルがやって来た。
見たくなかったが、ときどき開ける目に写ってくるし気にもなった。
どうやら女の方が男を「ものすごい好きだ」という雰囲気が出まくっている。
女から男に抱きついていた。
なんだかロミジュリにでもなったつもりなのか、駅でわかれるのが寂しいという空気感をたっぷりだしていた。
もう2度と会えないわけじゃあるまいし。
次の瞬間、女は男にキスをした・・・・・
「やめてくれよ・・・」
目の当たりにしたぼくはそう思った。
体力の限界がきている時に他人のイチャイチャを見るのはムカついた。
マジ勘弁して欲しかった。
カップルは10分ぐらいそこで手をつないだりキスしたりとイチャイチャしていた。
おかげで僕は10分間もムチを打たれ続ける拷問を受けたようだった。
そして、カップルは人混みの中へと消えていった・・・
次回