すさんだ高校生活・・・
家の中には不穏な空気が流れていた。
学校に行かない僕を見て、母親は刺客を送り込んできた。
そして殴り合いのケンカをした。
何とかなる!東京に行こう。
もうじき夏休み前のテスト期間に入る。
家には帰りたくない。
テスト前から家出が始まった。
高校には友達がいなかったので地元の友達の家や麻雀仲間の家を数週間ほど転々とした。
そうこうしているうちに夏休み前の期末テストが始まった。
以前にもあったがテストを受けすらしない時があった。
理由はいたって単純。
やる気がなかったからだ。
勉強もしてないのに受ける意味がわからなかった。
たしかに勉強してなくても受けとけばいいというのは知っている。
でも、僕には無理だった。
だから今回のテストも受けたり、サボったりした・・・
「だるいのにこんな毎日を過ごすのは嫌だなー・・・」と思っていた。
中学の時はもっと元気があった気がする。
なにが人をこうまでに力を奪っていくんだろう・・
そんな時、ある言葉が僕の脳裏をよぎった。
「東京行けばなんとかなるかも!!」
次の瞬間・・・
「東京行こうっ!!」
僕は決断した。
家を出ることにした。
もう家に僕の居場所はない。
実家にいても毎日が嫌気のさすような出来事しかないならいる意味がない。
「俺は一人で生きる!!」
そして家出を決意した。
東京まで何で行く??
すぐに行動に出た。
まず何で東京に行くか考えた。
選択肢は新幹線かバイクかチャリ。
ちなみにバイクの免許は持ってない。
新幹線はお金が1〜2万円かかるからすぐにはずれた。
高校生にとっては大きな痛手だ。
今あるお金でできるだけ生きていかなければならない。
今思えば新幹線で行っていたら本当に家に帰ってこなかったかもしれない。
バイクで行けるか検討した。
お金がかかるといってもガソリン代だけ。
スクーターレベルなら燃費もかなりいい。
それに、友達のバイクを何度か運転してみたことがあった。
捕まるリスクは完全に無視した。
すぐに貸してくれそうな友達に電話してみた。
さすがに、借りるのは無理だった。
残された選択肢は一つ。
自転車・・・
中古だ。
前に結婚式場のバイトでイラつく思いをしながら稼いだお金で買ったママチャリ。
ガソリン代はかからない。
乗車切符もいらない。
捕まる可能性もかなり低い。
必要なのは僕が東京に行くまでの体力と気力だけだ!
そして、すぐに行動にでた。
ママチャリにまたいで南の方向にある東京を目指してペダルをグルグルこぎ始めた。
こぎながら一番仲が良かった麻雀仲間のひとりに家出することを電話で話した。
電話では「頑張れな」的なことを言われた気がするがよく覚えていない。
きっと気持ちがこもってなかったんだろうと思う。
チャリを一気にこいだ。
3時間ぐらいずっとこぎ続けた。
あーっという間に地元からずいぶんと離れた所まで来てしまった。
もう実家に帰る気はさらさら無かった。
さらにこぎ続けているとあたりが暗くなってきた。
5時間ぐらいこいだ・・・
ずっと激しくチャリにのっていたせいか、あまりお腹が空いていなかった。
スポーツをした直後は喉は渇いてるけど、食欲があまりないのと同じだった。
初めての休憩をとった。
数時間たってやっと1回目の休憩。
まるでアスリート。
お腹が減っていなかったが、いつでも食べれるようにとさけとシーチキンマヨネーズのおにぎりを2個買った。
そしてまたチャリにまたいでこぎ始めた。
そのあたりは前に来たことがある街だった。
なんとなく街の風景を覚えていたので、懐かしいなーと思いながらあっという間に通り過ぎた。
さらにチャリをこいだ。
ずーっとこいだ。
まるで夜中にハムスターがグルグルグルグル回し車を朝まで回し続けるかのようにこぎ続けた。
鬼のすむ峠の戦い
![](https://i2.wp.com/cobarin01.com/wp/wp-content/uploads/2018/08/rain-2811639_1280-1024x768.jpg?resize=728%2C546&ssl=1)
ずっと昔に兄の車で通ったことのある山道の入り口に着いた。
山道によくある細い道、夜中に大型トラックがバンバン行き交い、熊出没や鹿出没の看板が立ち並ぶ。
当然歩道なんかあるわけない。
県をまたいだ峠を越えなければ東京に着くわけがない。
僕はそんな物々しい峠を前にして乗り越える決心をした。
峠に入ったら後戻りはできない。
戻るぐらいなら峠を越えた方がいい。
今更もどっても僕の居場所はない。
「行くしかないっ!!」
その峠の名前は「鬼の峠」
峠に挑むのとほぼ同時に容赦ない仕打ちの連続だった。
峠道と言うだけあって坂道が続いた。
永遠とも言える道のり。
どれぐらい登ったかなんてさっぱり覚えてない。
さらに、視界は明らかに悪い。
周りは暗くなっているからボワーッと光る電灯のみ。
完全な山道。
何が出るかわからない。
「クマが出たらどうしよう・・・にげれるのかなー・・・」
どこまで行けば峠を越えれるかも不明。
ずーっとひとりぼっち。
ときどき走る長距離トラックにある意味、安心感を覚えた。
「はぁー・・はぁー・・」
どこまでもいつまでもこぎ続けた。
薄暗い峠道を。
時には真っ暗闇になることもある。
でも引き下がることはできない状況。
峠道にはトンネルが何箇所かあった。
「どこまで続いてるんだ?」って思ってしまうような10キロぐらいのトンネルもあった。
中には歩道のないトンネルもあった。
そのトンネルを通った時はさすがに怖かったので抜け出るまで全力でチャリをこいだ。
それでもトラックが何台か通った。
トラックの大きさは半端じゃなくバカでかい。
通り過ぎる時の風圧やら威圧感やらはマジでやばい。
「ひかれたら即死だな・・・」
「もしかしたら俺は生きてこの峠を抜けることができないかもしれない・・・」
「それでも俺は生きぬいてみせる」
そう思いながらドンドン進んだ。
途中から雨が降って来た。
余計に体力が消耗されて行く。
ムゴイことに雨は土砂降りになった・・・
もしかして轢かれる・・・??
どこまでも続く細長ーいうねり道。
そこを走る威圧感たっぷりのトラックの数々。
そして、ついに死ぬことを予感させる峠道一のやばい瞬間がきた。
完全な真っ暗闇の視界不良、道は細くて歩道がなく、小さなうねりが続く道をチャリでこいでいた時、
ゴーゴーと轟音をとどろかせながらガンガンとせめるように大型トラックが走ってくる。
明らかに車がすれ違うのに気を使うぐらいせまい道だ。
そのトラックだけじゃない。
対向車も来た。
すれ違うタイミングの予測を立てた。
「やばい・・・」
「俺のあたりですれ違うかもしれない・・・」
相手のトラックは俺がいるなんて知るよしもない。
不安がよぎった・・・・・
すぐさまチャリから降りて、道路の山側の壁に両手をバァッと広げてチャリと一緒にカエルのようにビタッと張り付いた。
すぐ横を大型トラックと対向車が「ゴオーーーー!!」っと通り過ぎた。
その瞬間、僕は命からがら安堵した。
マジで死ぬかと思った・・・
自分しかいないだろうと思って容赦なく走るトラックは遠慮がない。
本気で死の恐怖に襲われた。
その瞬間を乗り越えた俺はドラクエ的に言うとレベルアップした瞬間なんだと思う。
折り返し地点
![](https://i2.wp.com/cobarin01.com/wp/wp-content/uploads/2018/08/bad-2841902_1280-1024x768.jpg?resize=728%2C546&ssl=1)
チャリをこぎ続けていたら、なんとなく下り道が多くなって来た。
「もしかしたら、中間地点を越えたかもしれない^^」
そんな明るい兆しを感じ取りながら僕はこぎ続けた。
相変わらず、空からの雨はバシャバシャと僕を打ち続けている。
何度もなんどもペダルを踏んだ。
どれだけこいだかなんて全くわからない。
気が遠くなっていた。
雨が少し弱くなって来た。
周りの景色が真っ暗闇だったのが少しずつ薄暗くなってきた。
気づいたら朝方になりはじめていた。
峠の木々や道路がはっきりと見えるようになった頃、温泉街の街並みが見えはじめた。
なんども心が折れそうだった峠を越えたことを悟った。
「やっと乗り越えたーーーーー^^」
温泉街が見えてから温泉街に着くまで数時間かかった。
「遠いからー・・・」
見えたからといって着いたわけではないし、温泉街に用事はない。
しかも疲れに疲れきっていた。
当然、寝る場所なんてない。
12時間ほどだった。
峠を越えるためにかかった時間は。。。
体力的にも精神的にもボロボロ。
とりあえず峠に入る前にコンビニで買ったおにぎりを1個食べた。
疲れきっていたからかあまり腹は減ってなかった。
ところどころ立ち止まることはあっても寝る場所がない。
だから、僕はチャリをこぎ続けた。
途中にある仙台の街に高校の時の一個上の友達が一人暮らししていた。
その人に連絡をして、とりあえず何日か泊めてもらえることになった。
やっと、休めるところにありつけそうになった。
しかし、友達のところに行くまでにさらに何時間もチャリをこいだ。
ざっと6時間はこいだと思う。
ずっと国道を走ってる途中、チャリでは通れないところがあった。
国道でも歩道がなくて道路もかなり狭い道があった。
だから、チャリで走れない。
「でも時々、車道をチャリで走ってる人もいるよなーー・・・」
なんて思いながら迂回路を探すことにした。
「んーー、どうしよう・・・」
近くのコンビニによって道を聞いた。
「ここの裏に道が走っているからそこを通ればすぐに行ける」と店員さんに教えてもらえた。
「なるほど。近くに回り道があるんだな^^」
さっそく、裏道に入った。
「なんだこりゃ・・・マジかよ・・・」
なんと、裏道は数時間前にやっとの思いで走った峠に近いような山道だった。
背に腹は変えられない。。
この道しかないなら行くしかない。
後には引けない。
っていうか引くところなんてどこにもない。
疲れ切った老体のような体の僕はペダルこぐしかなかった。
僕にできることはチャリをこぐことだけ。
山道を超えるために3時間かかった。
そして、ふたたび国道に入ることができた。
それからさらに数時間もチャリをこぎ続け、やっとのことで友達の元にたどり着いた。
これで、ゆっくり寝ることができる・・・
次回 第3話へと続く。。。